LiveWalkerが取材したライブハウス・インタビュー特集(全111回・2013年7月〜2020年2月)のアーカイブです。掲載情報は取材当時のものです。

ライブやろうぜ!ステージファイル Vol.18

下北沢 WAVER

下北沢WAVER
下北沢WAVER について
ミュージシャンやスタッフの熱い思いを抱き、当時フリーランスのエンジニアとして活動していた大和田氏を始めとする技術スタッフ数人で「アーティストの立場に立ったライブハウス」の立ち上げを決意、8年前に西荻窪にWAVERをオープン。そして2014年8月下北沢に移転。バンド演奏ができるライブハウスとしては16件目になるというライブ激戦区の下北沢エリアで、WAVERの新たな挑戦がスタート。
下北沢WAVER へのお問い合わせ
下北沢WAVER 公式サイト
世田谷区北沢2-14-13-B1F
TEL:03-6804-0094
営業時間 : 16:00〜22:00(不定休)
下北沢WAVER

ライブハウスの中の人に話を聞いてみた〜下北沢WAVER編

このコーナーはライブハウスでバンドをサポートしてくれる「中の人」に突撃インタビューして色々お話を聞いてしまおうというコーナーです。中の人の皆様、ご協力ありがとうございました。

下北沢WAVER 大和田 浩司氏(右・エンジニア)と辻井 裕子氏(左・ブッキング・照明)
控えめな雰囲気に職人魂を漂わせる大和田氏と可愛いらしい印象の裏に熱い音楽愛を込める辻井氏のお二方から『ライブハウスの今』を聞き出してみた。
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今回は先月2014年8月に西荻窪から下北沢へと拠点を移してリニューアルオープンした下北沢WAVERを訪問しました。本日はよろしくお願いいたします。

大和田&辻井よろしくお願いします。

フリーのエンジニアとして活躍していた大和田さんがライブハウスオーナーらと意見が合わなくなって自ら興したのが「WAVER」だと伺いました。どういった面で食い違っていたのでしょうか?

大和田お金の使い方です。シンプルな業界なのでチケット等の収入が一か月でいくらの売り上げになっているのか、そしてそこから家賃や人件費を引いて手元にどれくらい残るかは大体わかります。そのお金を「どう使うのか?」というとこですね。

当時のライブハウスのオーナーさんはどう使っていたのですか?

大和田お金が一旦全部オーナーにいくのは当たり前の事ではありますが、例えば現場では出演バンドから『年に一回くらいは大きいステージを借りてイベントやりたいです』という声が上がってくるんです。

僕らスタッフもそれを実現しようとオーナーに掛け合うのですが『そんな金は出せない』って答えが返ってくる。毎月○百万円の売り上げがあるのに1年に一度のイベント費用すら出してもらえない、となると現場のモチベーションは一気に下がるんですよね…。

現場への見返りが少なかったんですね。

大和田出演するバンドの中にはお金ない中で楽器や機材を買って、自腹を切ってノルマを払ってくれるバンドマンたちもいるのに、オーナーは車買ったとか家買ったとかね。「ほんの少しくらいは現場に還元してくれないのかなあ?」って。

ということは当時はライブハウス自体に結構な売り上げがあったということですか?

大和田2000年頃の当時はそうでしたね。今現在は当時の三分の二もいってないと思います。

バンドやお客さんの数が減ってしまったのですか?

大和田いや、ライブハウスが増えたんでしょう。同じ数のバンドやお客さんがいてもライブハウスが増えればそれだけ分散されますからね。バンドの数自体もさほど変わってないと思います。

ドリンクは安値で提供。お客さんに残ってもらえればバンドもうれしい。

下北沢は都内でもライブハウス多いエリアです。新生WAVERの特徴はどこでしょうか。

大和田お客さん側にわかりやすい部分では、ドリンク代を二杯目以降は300円にしています。キャッシュドリンクに関してはもう原価レベルですよ。そうなると利益にはならないのですがお客さんに残ってもらえれば、出演してくれるバンド側も喜んでくれるので。

お酒やドリンクサービスは重要です!

大和田あとは僕自身がアーティストのマネージメントをやりたいっていうのがあります。今は西荻窪時代からのバンドを一つだけ扱ってるんですが、なにせまだ下北沢でオープンしたばかりなので、ちょっと動きにくい状態なんですが(笑)

どのようなバンドをマネージメントしていきたいですか?

大和田やる気のあるバンド!最初は下手でもいいんです。でも、やる気だけは持っていてくれないと会話が成り立たない。「練習してくれっ」て言っても「なんで練習しなくちゃいけないんですか?」ってなっちゃう(苦笑)。やるからには『上手くなりたい』『良い曲を作りたい』って気持ちは必ず持っていて欲しいです。

最近のバンドの傾向として演奏力よりエンターテインメント性が優先されている感もありますね。

大和田こういう意見はライブハウスの営業にも関わるのであまり言わないのですが、バンドへの「ダメ出し」や、あまり厳しい事を言うと「もうココ嫌だ」ってなってしまい他のライブハウスに流れていってしまうんですよね。

辻井否定…とまではいかなくても、曲などに関してアドバイスとして正直な感想や意見を言うと「わかってくれてない!」ってなっちゃうこともあって…。

どうしても自分たちに優しい居心地の良い(他のライブハウスの)方にいっちゃうんです。こちらとしては「プロのレベルについていけないならプロにはなれないんじゃないの?」って話を伝えたいんですけど。なので、伝わるように丁寧にソフトに言うように心掛けてはいるんですけど。

大和田それと業界の方で変化してきた部分としてはレコード会社がアーティストの育成をライブハウス側に投げ始めてきた、というのもあります。

「売りやすさ」を求められるが、意地でも楽曲のクオリティーで勝負を挑みたい。

それは予算がないから?

大和田そうです(笑)ちょっと前までは技術的な部分だけでも良かったんだけど、今は「プロになるための意識作り」までもこっち(ライブハウス)に託されてます。

意識づくりまでやるとなると時間やお金もかかりますね…。でも、とにかく面白い事やっているバンドならピックアップしたいと思っているレーベルはないんでしょうか?

大和田それはどこのレーベルも思ってます。むしろレコード会社は、バンドのジャンルや演奏より、売れそうな商品、一行で書けるトピック(売り文句)を持っているミュージシャンを求めてるんです。トピックが売りやすさにつながるんですね。私もレコード会社に在籍していた事もあるので理解はできます。だから、実は今一番売りにくいのはJ-POPなんですよ。

J-POPが売りにくい?それは意外ですね。

大和田スタンダードすぎるんです。売り文句で『スタンダードな歌もの』とは書けないじゃないですか。歌が良くてもそれを伝える「宣伝文句」がない。僕は歌ものが好きで録音したアーティストの音源をレコード会社に持ってくんですが、「良いんだけど、どうやって売るの?」って戻されちゃう(笑)そうなると意地でも楽曲のクオリティーで勝負を挑みたい。

なるほど、音以外に興味を惹くような掴みどころが必要なんですね…。それでは次の質問です。『ライブハウスをやっていてよかった』と思われる時はどのような時でしょう?

大和田良いバンド、良いアーティスト、良いミュージシャンに出会えた時。そしてそれらのバンドがプロになった時です。今のところ自分が「いいなぁ」と思ったミュージシャンは大体がプロになれてるんで、それは自分の耳や感覚に対しての自信にもなります!ただ、まだWAVERからは出せてないんですよね…。

WAVERからプロを輩出していきたい。そのために西荻窪から下北沢にやってきた。

おや、それはなぜでしょう?

大和田その答えが欲しくて渋谷や下北沢といったターミナル駅付近でやってみようと思ったんです。西荻窪でなかなか結果が出なかったから、自分のやり方だったり、個人的な価値の基準がズレてきたのかなあ?って思い始めてたんで…。って、これで駄目だったら仕事なくなっちゃうな(笑)

これまでWAVERが続いて下北沢へ進出できたのも音楽への熱意やバンドへの想いが伝わっているからこそと思います。辞めないでくださいよ(笑)さて続いて、辻井さんが『やっててよかった』と思う時は?

辻井私はブッキング以外にもステージの照明をやってるんですが、良いライブやバンドに出会ったとき、その現場にリハーサルの段階からスタッフ側として一から一緒にステージを作っていけるとこですね。やっぱりお客さんの立場の時では出来ない体験です。

音楽的な気持ちが先行すればするほどお金にはならなくなる。

ライブの現場を作れるというのは毎回新鮮な体験だと思います。それでは、ライブハウスをやっていて『これはありえない!ここがつらい!』という時は?

大和田まず第一に儲からない。個人的な収入はフリーエンジニア時代の三分の一になりました。多店舗展開してスタッフに売り上げのことを厳しく言うような方針にすれば儲かるのかもしれませんが、スタッフにそれを強要すればその姿勢は出演してくれるバンドに向けられてしまう。

それが音楽的に良いものにつながるか…っていうと僕の中では疑問になってしまう。支離滅裂になるんです。音楽的な気持ちが先行すればするほどお金にはならなくなっちゃうんですね。

それは悔しい…。

大和田電卓たたきながら『こんなに頑張ってるのにお金にならない』ってなりますよ。経営者の立場としては「ああ、どうしたもんかなあ…」ってなりますね(苦笑)

音楽業界って頑張りと収入が比例しないことは多々ありますよね…。

大和田あとはバンドに厳しい事を言った際に、ここから離れて行ってしまうこともつらいですよね。だいぶ慣れてはきたんですけどね。

辻井私は慣れません(苦笑)

大和田でも仕事時間の長さがつらいとかはないです。「休みがない!眠い!」くらいの愚痴は言いますけど、仕事そのものに対してのつらさはナシです。

まさに陰で支える裏方さんの気持ちと現実… この思いをミュージシャンにも伝えて下さい。

辻井とにかく音楽を続けてほしいです。大学進学でバンドを休止してそのままやめちゃったり、プロになれないと判断してやめちゃったり、もったいない!お金とかそういう部分で無く、趣味でもいいから単純に音楽を続けて欲しいし、好きな事なんだから続ければいいのに!

確かに、好きな事をわざわざ捨てなくてもいいですね。

大和田プロを目指すなら「自分の物指し」は高くやってほしいし、アマチュアの人たちには楽しんでライブしてもらいたいです。僕はどちらかというとバンドに対してというより、音楽業界をどうしたらいいんだろう?って考えます。

やる気と根気、そしてそれを10年維持できるならライブハウスは作れる。

音楽業界はどうしたらいいんですか?

大和田これは自分自身の話にもなりますが、よく「ライブハウスを作るにはどうしたら良いですか?」と聞かれるんですが「頑張れば出来るよ」と答えています。

何千万の費用が掛かりますけど、やる気と根気、そしてそれらを10年維持できるならライブハウスを作れます。そうして、「音楽が好きでどうしてもライブハウスをやりたい」って人と、その意気込みにバンドマンが集まって良い音楽を作ろうっていうところに、良い土台が出来ると思います。

2年間居酒屋の店長をやって資金をためてライブハウスを作った人もいますし、そういう人が増えるとまた変わってくるんじゃないかな。

それはプロミュージシャンを志す以上の覚悟と情熱ですね。増えてくれるといいなあ!

大和田最近だと2020年に東京オリンピックが控えてるのでそれまでにライブハウスを出そうという人たちも増えてますね。それとアベノミクスのおかげもあって国も融資枠を上げているようで、ちょっと前だったらとても借りられないような金額を融資してくれるようになりました。実はここもそのおかげでオープン出来たんです。

クリエイティブな活動に投資してくれるのは嬉しいですね。ミュージシャンにもその気持ちと投資が還元されてほしい。

大和田民間レベルでは無理だったことですからね。世田谷区自体が街を盛り上げ下北沢は音楽の街として大きくしようと頑張ってくれています!

WAVERさんは絶好のタイミングで下北沢に来られたんだ!ぜひとも下北沢ライブハウスシーンを盛り上げて下さい。本日は貴重なお話しありがとうございました。

大和田&辻井ありがとうございました。

インタビュー&ライター 浅井陽(取材日 2014年9月)

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下北沢(世田谷区)
下北沢
下北沢駅は新宿からの小田急線および渋谷からの井の頭線が交差する場所に位置する、東京都内でも屈指の音楽が盛んなエリア。ライブハウスやライブバー、専門楽器店、音楽スタジオが多数存在する。また劇場やミニシアターなどのサブカルチャー系も根強い。
キャッシュドリンク
ライブハウス入場時にチケットとともに払うドリンク代金を1杯めとすると、2杯目以降の店内のバーコーナにて自分で支払って購入するドリンク、つまりバーでの通常販売のドリンクのこと。通常はチケットについているドリンク券は割引してあるため、入場時の1ドリンク価格よりは高い値段設定になる場合が多い。
ステージ照明
ライブハウスのステージにおいて欠かせない演出が照明である。ステージ上部から楽曲のサウンドやテンポにあわせた明度やカラーでエフェクトをつけたり、後方からステージに向けてアーティストを照らすためのスポットライトなど様々な照明演出が行われる。ライブハウスによって事前にバンドやアーティストについて照明についての大まかなリクエストを出しておくことも可能である。ライブハウスの施設として音響PAと同様に重要な設備である。
リハーサル
ライブハウスの本番ステージの前に、当日出演するバンドがステージ上での音や演出の確認を実際のステージをおこなって行う。ライブハウスが会場する数時間前から行われる。とくにブッキングライブなどの場合は、バンドの楽器構成やサウンドによって準備やセッティング変更の作業も多くなるためライブハウススタッフ側にとっても重要である。
世田谷区(東京都)
東京都23区の西側に位置する特別区である。高級住宅地として知られるエリアだが東京都心部の入口となる下北沢、三軒茶屋などにはディープなカルチャーで賑わう。世田谷区長の保坂展人氏(元衆議院議員・元社会民主党副幹事長)は教育ジャーナリストの経験を活かして若い世代にも理解を示す政策や活動で支持を集めており、議員時代から頻繁に世田谷区町内に顔を出し、公式ツイッターで日々の活動や考えをツイートしているなど区民に身近な区長である。