ライブやろうぜ!ステージファイル Vol.59
新宿 HEAD POWER
- 新宿HEAD POWERについて
- 1968年OPENの日本最古級ライブハウスとして、新宿アンダーグランド・サブカルチャーを発信してきたハコ。2008年、靖国通りから明治通り沿いに移転。歴史あるHEAD POWERの名を継承しつつ、時代とともに生まれる多様なシーンの受け皿となり、「ライブハウス=音楽演奏」を越えた表現の場として運営。伝説は星々の領域で美しく瞬く。地を耕し、日々の糧を得て生きるうつし世で、歌をうたい、音楽を奏でる意味を問い続ける。
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新宿区大久保2-5-19 シティプラザ大久保B1
TEL:03-6380-3769 (営業時間 15:00〜22:00)
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ライブハウスの中の人に話を聞いてみた〜 新宿HEAD POWER編
このコーナーはライブハウスでバンドをサポートしてくれる「中の人」に突撃インタビューして色々お話を聞いてしまおうというコーナーです。中の人の皆様、ご協力ありがとうございました。
新宿HEAD POWER CEO 阿部健太郎氏インタビュー
本日は新宿HEADPOWER、CEOの阿部健太郎さんにお話をお伺いします。とにかく歴史のあるハコとして有名です。オープンはいつ頃になるのですか?
1968年にオープンした日本最古のライブハウスです。シンガポールが独立してからの歴史とほぼ一緒です。還暦を超えられた方が「昔HEADPOWERに行っていたよ」なんて書き込んでくれることもあります(笑)。
このインタビュー企画史上でも最古の老舗です。お店の方が阿部さんよりも年上ですよね? 阿部さんがオーナーになるきっかけや経緯を教えてください。
だいたい2000年頃でしょうか、当時から作曲や、フリーランスとして音楽ビジネスをやっていて、イベントの会場として利用していたハコのひとつにHEADPOWERがありました。その頃は多くのライブハウスの中の1つという程度の関係でしたが、それが出会いになります。
元々は作曲や外部イベンターとして活動していたのですね。
そうです。「このライブハウスを自分の表現したいことの一部(現場)にしたい」と思うようになって、ライブハウス移転のタイミングで引き受ました。
阿部さんが引き継いでから大きく変化したことはありますか?
いいえ、HEADPOWERをガラリと変えるつもりはなく、それまでの延長線上で自分の表現したい要素や理想を加味してきた、という感じです。まあ、時代の変化もありますから、自然と変化してきたところはあります。
当時から新宿HEADPOWERといえばアンダーグラウンドのハコという印象がありますね。
はい、基本的にはロックやハードコアのバンドがメインですが、僕が引き継いだ時点でもHEADPOWERこそが「自他共に認める日本最大級のアンダーグラウンドのハコ」という状況でしたので、まさに「何でもアリ」の状態でしたね。
そのあたりは、阿部さんがオーナーになっても変わらず?
なんでもありです。オイルマットの上で女子プロレスをやったり、SM調教師の某大御所がよくご出演されていたり、楽器演奏とは関係ない、特殊なパフォーマンスを生業とする海外のアーティストにも出演してもらっています。
音楽もアートの一部。あらゆる表現の場であってよい
それはアンダーグラウンド! 音楽を越えた先にも着手しているのですね。
僕自身、音楽と思想活動やアートが紙一重のような、マニアックな存在への理解もありますので、ライブハウスはあらゆる表現の場であってよいという考えです。そもそも、音楽はアートの一部ですから。
広義のライブパフォーマンスですね。
最近ですと、アイドル、ボーカロイド、アニソン、シンガー系など、15〜20年前だと考えられないシーンが成長して、今や「ライブハウス=楽器演奏」という概念はありません。これからも、時代とともに出てくる多彩な表現、自然に派生した表現を受け入れてプロデュースしていきます。
経営する立場になって、理想と現実の違いを感じたこともあったのでは?
理想はあるのですが、それを具現化するのは大変ですね。CEO(経営最高責任者)に就任した当時は、僕のやりたいことを本当に理解してくれる人がいなくて、スタッフもついてきてくれず(苦笑)。
組織を機能させる難しさを痛感した?
人を育てるって、なんて難しいのだろうと思いましたね。そのうち「自分のやり方が悪いからだ」と思い試行錯誤して、今はようやく2歩進んだあたりに来たところでしょうか。
自分のやり方のどこが原因だったと?
組織のカラーって、やはり創業者とか、トップの人間の掌やキャパシティを超えないと思うんです。それが、Appleやユニクロのような、創業者の絶対的なカラーありきだったらよいのでしょうけど、僕の思う色は、ちょっとばかり許容範囲が広すぎたようでして…。
バンド活動がうまくいかない理由の9割はリーダーの責任
バンド活動のリーダーの苦悩にも近いですね。
ああ、近いです。バンドは会社と同じ構造だと思っています。バンドの連中が「バンド活動がうまくいかないんだけど」と言う時の理由の9割は「リーダーの責任」でしょうから。
達者なミュージシャンが揃っていても上手くいかないことはありますからね。
RPG(ロールプレイングゲーム)で例えるなら、自分個人が中ボスを倒せるレベルになって仲間を集ってパーティーを組んだものの、中ボスに出会う手前の橋でみんなバッタバッタと死んじゃって先に進めず結局一人で何個も棺桶を引きずって歩くことになるような。つまり、自分が〝パーティーのリーダー〟としてはまだレベル1だということに気づいていない。
RPGあるある、ですね。阿部さん自身のリーダー経験から来ている?
そうです。自分も作曲家として良いお仕事を頂いていた事で調子に乗り、その勢いでCEOになってしまった。作曲家としてやっているレベルで経営もできるだろうと思っていたのが大きな間違いで、組織のリーダーとしてはレベル1だった(苦笑)。個人で戦うのと、リーダーとしてパーティーを率いるのはまったく別ものです。
ドラクエのダーマ神殿で転職したてのようなものでしょうか。
まさにそれ! 転職したのに気づかず、突っ込んだら全滅してしまった、というやつですね(笑)。
音楽って色んな意味で「やっちゃダメなもの」なんですよ
阿部さんの貴重な失敗経験を通じて学んだこと、現場で活かされていることなど、いくつか教えていただけませんか?
はい。ああ、ここ、ぶっちゃけちゃいますけど「音楽をやっている人間はバカ」なんですよ(笑)。人としてダメ(笑)!
ひぇ〜、大丈夫ですか?(笑)
ええ、まずは説明させてください。そもそも、音楽って色んな意味で「やっちゃダメなもの」なんですよ。たとえば、金はかかるのに金にならない。それなのに、人を魅了するし、心を掴んでしまう代物ですから。
そこは、理解できます。ある種のドラッグのような…。
そう、だからこそ、現場でバンドにアドバイスする時は「音楽やるのなら本気でやろうよ!」と言っているんです。それでも、99.9%のバンドが解散したり、音楽自体を辞めたりしますよね。結局、みんな「本気」ではやってないわけです、結果的に。
う〜ん、現実的にはそういうことになりますね。
どんなに成熟した芸術も、受け手が成熟していないと伝わらないように、成熟していない人に深いアドバイスをしても伝わらないし、バンドとして何も吸収してもらえないわけですよ。それどころか、真摯なアドバイスを伝えても、特にリーダーに理解力がないと「なんだこいつ」と、こちらがディスられるだけ(苦笑)。
「本気」でやっているバンドは、やはりリーダーも優れている?
もちろんです。「リーダー力」が違います。リーダーが賢ければ多面的にどんどん吸収してバンドが成長していきます。それと、優秀なリーダーは「運」ももっていますね。運も実力の内で、バンドが売れるためには「運」や「ツキ」が不可欠ですから。
でも、運というのは努力でどうこうできるものではないですよね?
ニワトリと卵の理論になっちゃいますけど。運があるからリーダー力が付いてくる人もいると思うので、どっちが先かは言い難いのですが、環境に恵まれる人に会うのも運、そこへ導くのも自分の行いかもしれないし…。
とにかく、現場で「本気」で取り組む指導が日々おこなわれているのですね。
はい、僕の立場(お店の人間)として、バンドマン、もちろんスタッフに対しても、きちんとした教育をすることが大切だと学び、実践しています。
結果として阿部さんはバンドマンやライブハウスの底上げをしていると思います。
そうであるといいですね。
音楽の源流を深く知るためには、語学を学ばければならない
つぎに、組織のリーダーとしては、スタッフにどのような教育をしているのか、教えて頂けますか?
そうですね…、これも、いろいろな失敗を積み重ねて、自分自身を知った上で、今は「いい踏み絵」を用意することに成功しました。
いい踏絵…?
はい。スタッフにはまず、僕の理想を全て話します。それを理解してもらい、話し合えるような関係になったら1年ほど、英語習得の勉強をしてもらいます。自腹で。これが「踏絵」にあたります。僕が信頼している英語の先生に、週1で英語のレッスンを受けてもらいます。
自腹で英語の勉強…。もう少し詳しく教えてください。
例えば、Excelの関数もわからない、ビジネス文書も打てない、挨拶の仕方もわからない、そんな子たちが多くて…。彼らの中には「ロックってそういうことじゃないでしょ!」なんて、思っている人もいる。
自ら学ぼうとする姿勢が大切、ということ?
今の僕らがやろうとしていることや、そもそも今巷で流行っている邦楽、日本の大御所と言われるバンドやシンガーたちがやっていることも結局は海外で生まれた音楽の真似なわけですよ。もちろん、そこから、日本独自のスタイルに昇華させた素晴らしいアーティストも沢山いますけど。
そこは否定できない部分ではありますね。
音楽とはリズムで、リズムは「言語」に由来しています。だから言葉やカルチャーがわからないと、あるレベルから先は深くは掘り下げられないのです。たとえばドラマーが楽譜としては正解の、難しいフレーズを叩けたとしても、現地の言葉を知らないと、本物のアクセントや訛り、そして一番大事な“匂い”までは表現できない。
使える言語が増えると、聴こえる音域や打点も変わってくるという話は聞いたことがあります。
本当にそうです。そういう奥深い、音楽の源流を深く知るためには、語学を学ばければならない。それを身に付けられるまで、続けられるメンタリティのない人は、僕と付き合うのは難しい…。英語はきっかけの一つにすぎませんが、そういうことが理解できる人、世界を広げる努力ができる人を求めています。それを見極めるための最初の「踏み絵」ということです。
正直、ここまで阿部さんの話をお伺いしていて、日本屈指のアンダーグラウンドなハコを引き継いだオーナーというのが不思議な感じがします。
そこは、ちょっと僕を苦しめているところかもしれないです(苦笑)。例えば、ただ騒ぐのが好きな若い子を捕まえて酒を飲ませて水商売のように営業を転がしていれば、その世界観を確立していたかもしれません。
そういった「場末の飲み屋感」もアリだと思いますが、阿部さんとはまたベクトルが違う?
ああ、誤解してほしくないのだけど、そういうライブハウスを否定しているわけではありません。ただ、自分にはそれはできない、趣味嗜好が違っていたというだけです。自分の考える「理想郷」に連れていきたくて、入ってきた若者を引っ張り上げようとして、結果、色々壊してきてしまったものもあります(苦笑)。
生半可な気持ちなら音楽中心の生活は辞めた方がいい
それでは最後にHEADPOWERからバンドマン、ミュージシャンへのメッセージをお願いします。
まず、音楽一本で活動を続けてきて、結果が出ないままズルズルとある程度の年齢まできちゃった人。果たして、自分はいつまで音楽を中心にした生活をできるのか、ということを直視してください。生半可な気持ちなら音楽中心の生活は辞めた方がいい。人生をちゃんと歩むこと、家族がいることを考えてください。
はい…。このサイト的に、かなり耳が痛いユーザーもいるかもしれないです…。
正直、20代半ばが限界です。それを過ぎると取り返しのつかないことになりますよ。人生を逆算し、老いていく親のこと、周囲にいる大事な人のことも考えて欲しい。
音楽を志したものが必ず直面する問題ですね。
年間で、メジャー流通でデビューできるのは、オリンピックに出られる選手と同じぐらいと言われています。仮に年に一回オリンピックが開催されたとしたら、キミは選手になれるのか? もちろんオリンピックに出たからといって、その後の生活が保証される訳じゃない。ほんの一握りの人が生き残れるだけ。しかも、この業界、放送局の利権関係など、実力が全て、というフェアな業界ではない…。ミュージシャンにとって非常に厳しい状況であることを、理論的に理解しておいてもらいたい。
そう言われてみると、恐ろしいほどに狭き門です…。
そして音楽をやる意味についても、今一度考えて下さい。世の中には恵まれない人がたくさんいます。何千万人という難民がいて、子供を抱え国境を目指して歩く人たちもいる。そんな世界で「自分なんて比べ物にならないほど大変な人はたくさんいるのを知っている。でも僕の苦しみを聴いてくれ!」と、自分の事を歌うのがミュージシャンです。最低じゃないですか? だから、やるからには一生懸命やる責任があるのです。
そうですね、この時代、音楽をやる意味を問い続ける必要は強く感じます。
人間は知恵がついて賢くなってくると、収入を安定させ、生活を安定させます。そうすると、音楽に抱いていた熱い感情が静かに溶け込んでいって、いつしか音楽をやらずとも幸せに過ごせる日々が来るものです。そういう穏やかで平和な日常を捨て、世界中の悲惨な現実を直視した上で、それでも伝えたい言葉、音楽が自分にあるのか? そこを徹底的に考えて、やるからには全力で挑んで欲しいです! ありがとうございました。
阿部さんのエール、「本気の人」にはきっと届くと思います。本日は熱いお話をありがとうございました。
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