ライブウォーカー バンドマンに捧げる不定期コラム

がん告知から余命宣告 亮弦-Ryogen-

第3回『限られた選択肢の中で…』

 

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健康コラム3部作は亮弦のメッセージで締める予定でしたが、誠に残念なお知らせをしなければなりません。

 

コラム執筆取材準備中の2017年9月18日、亮弦は息を引き取りました。コラムへのラストメッセージをもらうことは出来ませんでしたが、最後まで全力で立ち向かった亮弦の闘病生活を、パートナーとして苦楽を共にしてきたリンさんにお話をお伺いすることができましたので、本編ではそのお話をお届けします。

 

 

―― 亮弦の闘病の様子を、話せる範囲で聞かせてほしい。

 

リン:私は、ご家族と共に間近で彼の闘病姿を見てきました。抗がん剤治療以外にも、食事療法、民間療法を試すこともありました。それでも痛みを増す体、目に見えない死の存在に四六時中迫られる恐怖は、傍にいた私でさえ完全に理解することはできませんでした。

 

 

―― 彼は周りに「死の恐怖」をみせようとしなかったよね。

 

リン:そんな彼も「抗がん剤は製薬会社の陰謀」「○○はがんに効く」等の科学的根拠のないものをまことしやかに騙った記事にストレスを感じていました。ましてやそれが、身近な人のシェアした記事だったりすると怒りに近い哀しみを感じていたようです。

 

 

―― 前回のコラムでも言っていたね。

 

リン:実際、保険診療が可能な治療に使用される薬は、厳正な臨床試験や審査が行われます。抗がん剤も種類は様々ですがどれもそこに含まれます。がんそのものの種類も多く、悪性リンパ腫だけでも10を超えます。それらを安易に「抗がん剤」「がん」と一括りに論じる事自体いかがなものかと。

 

 

―― そんな試行錯誤の治療の中、7月に腸閉塞を起こし緊急入院したわけだけど、危機を脱した後「新しい治療法も試せそうです」と言っていた。

 

リン:腸閉塞を起こした後は、抗がん剤への耐性、生涯投与限度量の関係で、残された選択肢はごく僅かでした。「あくまで補助的な薬」としてジェムザールという薬を紹介されました。過度な期待をせずに臨みましたが、医師も驚くほどの顕著な改善結果がでてきたんです。

 

 

―― 「東京で音楽活動が出来そうです」と嬉しそうに伝えてきた時だ。

 

リン:同時期(8月30日)、新薬ジフォルタの販売承認が下りました。ジフォルタは臨床試験での奏効率も高く、ジェムザールよりも投与時間が短く入院を要さないという理想的な薬でした。9月11日、「ジフォルタが販売されてる!」の言葉と共に新薬の記事が私に送られてきました。

 

 

―― まさに希望の光りだった。

 

リン:新薬を入手するまでの少しの間、引き続きジェムザールの投薬がなされました。しかし、9月15日に体調は急変。その後、全身の痛みに襲われ、18日夕方、静かに眠りにつくように息を引き取りました。

 

 

―― あと少し時間が欲しかった……。

 

リン:彼との交換ノートには、新薬が試せる喜びや安堵、制作への熱い想いがかかれていました。限られた選択肢の中、彼の心に常にあったことは、いかに制作の時間を得られるかということでした。

 

 

―― 彼の情熱、その音を、確かな形で伝えようと思う。最後にリンさんからのメッセージをお願いします。

 

リン:こういった話は、人の体験を聞いても、その実のところは理解しがたいものでしょう。伝えたいことはただ1つ。この話を読んでくださった方が、イメージではなく事実をもって、治療の現場の理解を深めてくださること。それを切に願っております。

 

 

 

 

 

筆者あとがき

 

健康3部作、最後まで読んで下さった皆様に感謝です。このコラムを作るきっかけは、お分かりのように盟友・亮弦が末期がんに伏せたことから始まります。気丈な亮弦は、なかなか弱音をみせませんでしたが、時折見せる深刻な病状と憤り、切に願う未来への希望というものを、メンバーとして黙って見ていられない、そんな理由から今回のコラムをご紹介するに至りました。 

 

このコラムでは主に、彼の病気に対する苦しみや、葛藤、怒りなどがメインに書かれていますが、もちろん彼の大部分は、もっとシンプルで愛情深く人懐っこい、そして何より、誰よりも音楽を愛する人間でした。

 

コラム内に出てくる民間療法云々の件でも、それらを推奨する人は、その人たちなりに悪意はないのだとは思います。ただ、正しい知識を知らないがために、このようなイメージ医療と現実の医療とで温度差、能力差がでてしまうことは事実なのです。過去の民間療法、経験があるからこそ現在の医療があるわけです。決して過去の医療を否定しているわけではありません。

 

正しい医療知識を取り入れようとすること、その姿勢が亮弦への弔いとなると思います。 

 

最後の最後まで諦めなかった勇姿を胸に。 

 

盟友 亮弦に捧ぐ

 

 

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【免責事項】本コラムは筆者取材による事実に基づきますが、医療情報の提供を目的とするものではありません。記載内容について、編集部では医療的な方針の主張をするまでの専門知識を有しておりません。何卒ご了承のほどお願い申し上げます。MUSIC-MDATA編集部

 

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企画&ライター 浅井陽 - イラスト担当:こむじむ

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