LiveWalkerが取材したライブハウス・インタビュー特集(全111回・2013年7月〜2020年2月)のアーカイブです。掲載情報は取材当時のものです。

ライブやろうぜ!ステージファイル Vol.14

Club Mission'sは2017年1月をもって高円寺での営業を終了し「新宿ライブフリーク」に統合されました

高円寺Club Mission's

高円寺Club Mission's
高円寺Club Mission'sについて
2007年オープン、2014年5月で7周年を迎えた高円寺高架下のライブハウス。フリークミュージック系列店として新宿Live FreaK四谷OUTBREAK! に続く三店舗のライブハウス。イベント・ステージはもちろん、充実したドリンクや演出、アイデアで出演者、お客様全員が楽しめる空間を提供してくれる。
高円寺Club Mission'sへのお問い合わせ
高円寺Club Mission's
[閉店] 杉並区高円寺南4-52-1
TEL:03-5888-5605
高円寺ミッション

ライブハウスの中の人に話を聞いてみた〜Club Mission's編

このコーナーはライブハウスでバンドをサポートしてくれる「中の人」に突撃インタビューして色々お話を聞いてしまおうというコーナーです。中の人の皆様、ご協力ありがとうございました。

辰野仁

高円寺Club Mussion's 店長 辰野仁 氏

本日は高円寺のライブハウスMission'sの店長、辰野さんにお話しをお伺います。まずは、辰野さんが店長になられるきっかけから教えていただけますか?

最初はMission'sがはじまって(2007年オープン)三か月くらいの時にイベンターとして出入りし始めたんです。その当時は他のライブハウスで働いていた経験もあるので、正直ライブハウスで働くことは嫌だったんですよ。

他のライブハウスではスタッフとして働いていたのですか?

そうですね。なのでスタッフよりイベンターとしてやっていこうと思っていたんですが、ここを使わせてもらってるうちにオーナーと意気投合して、オープンして一年くらいしてから店長をやる事になったんです。

オーナーさんは強い影響力のある方なんですね? この間、系列店の新宿LiveFreakの店長さんに取材したばかりでしたのでタイムリーな話題です。

良くも悪くも嘘のない人だと思います。悪く言っちゃうと言葉をオブラートに包むことが出来ないというか、非常に正直な人です。他の事業も色々成功している人でして、ライブハウスに対する思いも強い人ですね。

ライブハウスで働く気が無かった辰野さんが店長にまでなって育ててきたMission'sはどんな特色を持つようになったのでしょうか?

最初の一年は実験段階でしたからジャンルもめまぐるしく変わった時期でもありました。だからといって僕がある特定のジャンルに特化しているわけでもないのでオールジャンルをやっていきたいなと思っています。ただ、色んなバンドが集まっちゃっただけの“成り行きオールジャンル”というのではなく、一つ一つのジャンルを理解して、その棲み分けをきちんとした上でのオールジャンルとしていきたいと考えています。

ということはかなり聴き込んでいると?

まだまだ勉強不足な部分はありますけど、10代20代の頃は音楽ジャンルに関わらず聴いてきました。バンドをやっていた時期は作曲家/ライターとしての側面が非常に強くて、色んな曲を書いてみたいという思いがあったんです。書く曲をバンドに合わせちゃうとバンドのカラーの曲しかできないのでソロ名義で活動してたんですよ。その都度僕がインスパイアされた音楽のジャンルを表現してきました。それらの活動は様々なジャンルを理解するきっかけになったと思います。現役の時は千葉のTHE 3rd STAGELOOKANGAなどのライブハウスで活動していて、ELLEGARDENの前身のバンドのメンバーたちとオムニバス作ったりしてました。

ハッキリ言って今のライブハウスシーンは“低迷しているというより混迷している”という言い方がしっくりくる

ホコ天以来、再度ライブハウスが盛り上がってた時期ですよね。その頃からライブハウスシーンはどのように変化したと感じますか?

それについては主にツイッターで言及してるんです。ライブハウスのノルマ問題であったり、集客や告知の仕方であったりと多くの方に質問を受けます。その質問に対する僕の答えをまとめたスレッドを他の人が立ててくれまして閲覧数は5万ビューくらいまでいってましたね(※)。10万ビューまでいってるスレッドもあったはずです。まあ、ハッキリ言って今のライブハウスシーンは“低迷しているというより混迷している”という言い方がしっくりくると思います。

※ Twitter「#有効なライブ告知方法について考える」ハッシュタグ他(編集部)

混迷!?

ええ。やりかた次第ってとこなんですが、以前はライブハウスのやり方ってのがあって、それが一つの業態として成り立っていたんです。今はそれが無くなってしまって、それぞれが独自のやり方で進むようになったんですね。良い意味でも悪い意味でも音楽をやる環境としては良くなっているのですが、お客さんとしてライブハウスに来て面白いかと言われれば、ハズレが多くなった時代になった気はしますね。

道が沢山分かれちゃってるって感じですかね?

そうですね。乱雑になって迷ってる感じでしょうね。

その状況は脱却出来ないものでしょうか?

脱却できないと思います。違った形でライブハウスが変化していく必要があると思います。 例えば、明治〜昭和初期には寄席が流行りました。で、寄席の流行が廃ったあとは何軒も潰れていったという歴史が過去にあります。けれど、寄席がその状況を脱却して再び隆盛したかというとそうではなくて、上野の鈴本であったり新宿の末廣亭であったりと、残っているところは文化遺産としての残り方をしてるんです。 

確かに明確な変化ですね。

元々は職人さんが仕事の後に一杯飲んで遊びに行くような場所が、ホール落語として何千円何万円払って観るような場所に格式が上がったんですよね。ライブハウスもそういう変化が起きていくんじゃないかなと思ってます。ただ今の状態だと、それと同じ変化にはならないと思います。長い目でみればそういう変化になるかもしれませんが、それは10年20年で変わるものではないと思います。 

そう思うと、ライブハウスは今までが爆発的に流行っていただけという事なんでしょうね。

そうですね。例えば同じ高円寺のライブハウスのJIROKICHIさんは今年で40周年ですけど、それでも40年。非常に歴史のあるライブハウスですが、半世紀も経ってないんです。人類の長い歴史の中で、ライブハウスってほんの僅かな時間しか存在してないんですよ。だから今までの爆発的に流行っていた業態が正常かどうかも分からないんです。

まだ判断の範疇にないという事ですね?

今までが一番最初のビッグバン状態で流行して、それが最近になって落ち着いて、他の一般的な業種とようやく肩を並べられる業態になったとこじゃないかなと思います。

実体が見えてきた!?。

ただまだ他の業種と違うところは、需要と供給のバンランスが整ってないんです。今までは、ロックが人気出てスターが出てきてという流れだったので爆発的に需要が多かったんです。仮にロックの歴史の始まりをエルビス・プレスリーだとしましょう。それでも始まりは1955年なんです。結局60年経ってないわけで、ロックというものの歴史すらも非常に浅いんですね。今までが爆発的な需要を当り前に思ってしまっていた異常な状況だっただけなんです。

それわかりやすいです。

50〜60年というのは業態としては非常に短いものなんですよね。その50年の中での爆発的な需要(聴きたい人)の中から、今度は供給(演奏したい人)が増えて来たんです。“音楽は聴く娯楽あると同時に演(や)る娯楽でもある”という状態が如実に出てきたのが今のライブハウスシーンの現状じゃないですかね。 

今のシーンではビジネスとして音楽と向き合うと苦しむことになりますが、好きでやっているということなら昔よりずっとやりやすい環境になってると思います

ということは、具体的なビジネスモデルも存在しない業界ですから、ミュージシャンも自分達がどうしたいのかをしっかり持ってないと迷子のようになるのではないでしょうか?

すでに多くの人が迷子になってるんじゃないですかね!? お亡くなりになった佐久間正英さんも『音楽業界自体がビジネスとして機能してない』と仰ってましたし、良いか悪いかわかりませんが、僕自身も音楽は好きで楽しむことが目的なのであってビジネスとして考えるのが幸せだとは思わないんですよね。そう考えると、今のシーンではビジネスとして音楽と向き合うと苦しむことになりますが、好きでやっているということなら昔よりずっとやりやすい環境になってると思いますよ。

やっている人間は指針をかためるべきご時世ですね。ちなみに、需要側であるリスナーオンリーのお客さんもくると思います。そういうお客さんの中には『ライブハウスでの楽しみ方がわからない』という意見を耳にします。音楽というより場所に慣れないという感覚だとは思いますが…。

確かによく聞きますね。そこはお客さんが決めるとこなのでこちらからどう楽しんでほしいってのはありません。ただ、ウチとしてはお客さんに楽しめるものを提供しようって気持ちはあります。月の半分くらいはMission'sの主催イベントになっていますから、これらに関しては他店より工夫を凝らしている自信があります。

詳しくお聞きできますか?

まずMission'sのスケジュール見ていただければわかるのですが、全ての日程にその日のジャンルが記載されています。なので、自分が好きなジャンルなどを事前にリサーチできるようになっています。それと、一般的には通常のブッキングライブではお客さんもなかなか来ずに閑散としているためライブハウスのイメージを貶めているという話もよく聞きますが、僕は普段から通常のブッキングライブという考え方をしていません。一日一日全ての日程がイベントであると考えています

具体的にはどのようにイベント化するのでしょうか?

例えばニューロティカさんが出演するなら僕が告知してもお客さんは来ますが、知名度の低いバンドの告知を僕がしたところで結果は同じでお客さんはほぼ来ません。それだったら本人たちが告知する方が一番効果があります。だから僕は、出演者達が告知するためのウェブフライヤーやフェイスブックページを作っておきます。で、僕はSNSのフォロワーも非常に多いので同時に僕も告知します。そうやって出演者との一体感をもって、その日来たお客さんを一緒に共有していくんです。

告知は知名度によって有効な手段が変わりますもんね。

あとは、お目当てのバンドは見たいけど他のバンドは興味ないというお客さんも多いと思いますが、そういうお客さんのためにライブ以外に楽しめるコンテンツを組み立てて置きます。まずその一つがお酒。恐らくこの東京でMission'sほどお酒が充実してるところは他に無いと思います。ほとんどのオーダーに応えられるようにしてあります。ただし日本酒は戻してしまう人が多いのでカウンターに置いてないですけどね。裏メニューにしてあります。

何を頼んでも大丈夫なんですか?

スタッフにも最低限の知識は持たせています。5大リキュールに関してもウイスキーが5種類、ジンを3種類、テキーラが3種類、ラム3種類、ウォッカ2種類くらいを置いています。ウイスキーに関してもただやみくもに5種類揃えるのではなくて、シングルモルトとバーボンと棲み分けをして揃えているので、お酒を楽しむという面でも細かく楽しめるようになってると思います。

外観もBARみたいな雰囲気がりますよね。

元々そういう意図をもって作ったところもあるみたいですから、普通に飲みにくるお客さんもいますね。お酒以外のコンテンツでは、絵描きブースやライブペイント、占い、フードなどのブースや転換DJを入れています。最近名前が売れてきた「絵描光」くんにライブで絵描いてもらうようにしたのも僕なんです。こういった準備をして、顔合わせの時に『演奏を100%やってもらうのは勿論のことだけど、ちょっと余った力をMission'sでの楽しい時間の過ごし方にも協力してください、フロアにいるお客さんと交流してください』と、一言いっておくだけで、出演者も“今日一日を楽しくしよう”って気持ちになるんですよね。お客さんもお酒が入って話しかけられたりしたら楽しくなりますからね。

それは出演者も意識が変わりそうですね。

そうですね。集客しようという気になってくれます。あとウチの特徴としては、オープンからスタートの間に入場してくれた人にはチャージドリンクを一杯多く差し上げてるんです。普通はドリンク500円で一枚ですが、うちは500円で二枚です。最初の方のバンドってなかなかお客さん来てくれないと思うので、早く来れば得をするようにしてます。バンド側もサービスがあると、お客さんを呼びやすいですからね。それと二杯飲むことによってお客さんの滞在時間が延びます。一組目が終わってもまだもう一枚ドリンクチケットあるから、もう一組観ていこうとしてくれます。

ポイントは“楽しみを提供する上で誰が金を払うのか”ってとこ

それは出演者もお客さんも嬉しい!長期的に結果が出そうですね。お酒が入ると音楽にも陶酔しやすくなりますし。

それも大きいですね。やっぱり一組目が閑散とする率が少なくなりました。それでもやっぱり苦しい現状ですけどね(笑)。でも、そんな中でも毎日スケジュール埋められるのは幸せな方だと思います。

ビジネスモデルとしては何が正解かわかりませんが、毎日ライブができるというのは冥利に尽きるかもしれません。

これは持論ですが、ライブハウスとしてはやりたいことを提供するスタンスは変わらなくて、ポイントは「楽しみを提供する上で誰が金を払うのか?」ってとこなんですよ。お客さんが払うのか、ハコが払うのか、出演者が自腹切るのかっていう話です。ただこれは単純な話で、一番楽しんでいる人が払えばいいんです。

一番楽しんでいる人?

沢山のお客さんが楽しんでいればお客さんが払えばいいんですが、お客さんを楽しませることが出来ないけどライブやりたいってバンドは、出演者本人達が楽しんでるんですよ。となるとそれは出演者が負担するしかないんです。それでも負担したくないなら、少し嫌な思いしても楽しめる人たちを呼んでその人たちを楽しませないといけない。じゃあ、出演することを楽しむ人すら呼べないライブハウスに関してはどうかと言われれば、それはもうライブハウスを経営するってことを楽しんでるんだから、ライブハウスが赤字を切って持ち出しをするべきだと思います。楽しいと思ってもらってお金を貰うというロジックがあれば、そこは自然な流れになると思いますね。 

演奏者に関しては、その日の演奏の出来で楽しめる境界線が複雑になってきそうですけどね。多少のプロ意識は必要かもしれません。

半分仕事の気持ちはもってないといけませんね。半分半分という部分ではライブハウスの人間も同じです。本当に金儲けをしようと思ったらライブハウスなんてやりませんから。好きでやってるのが第一で、金儲けを考えてライブハウスやってる人はいないんじゃないかな?

音楽は好きでやってるという気持ちが大前提ですよね。今日は具体的な情報をありがとうございました。バンドマンの励みになると思います。

基本的には普段呟いてる内容ですけどね(笑)。こちらこそありがとうございました。

インタビュー&ライター 浅井陽(取材日 2014年2月)

インタビュー特集一覧(バックナンバー)

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1992年にオープンした本八幡駅(千葉県市川市)近くのライブハウス。スタンディングで200人収容のフロアで多くの地元バンドの活動拠点となっている。2011年に改装、リハーサルスタジオ等も併設。
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1989年にスナック・バーとして営業開始。90年代後半ミッシェル・ガン・エレファントのライブハウスツアーに利用されたこともある千葉駅から徒歩5分のライブハウス。
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1997年オープン、2003年に現在地の中央区富士見に改装移転。レンガづくりの外壁が特徴のロック・ポップス・アコースティク・ジャズ系のライブハウス。フードやドリンクも充実。
#有効なライブ告知方法について考える
2012年9月に辰野氏からの「ライブの集客方法」についてのアイデアや意見交換の呼びかけツイートに、バンド側、お客さんおよび関係者からの多数のツイートがまとめられたサイト。辰野氏の考えやアドバイスを含めバンドマンは必ず熟読しておきたい情報源となっている。
togetter.com/li/370923
#なぜライブハウスはバンドに集客を依存するのか?
2011年12月にあるミュージシャンによってツイートされたライブハウスへの批判に対して、高円寺Mission's店長の辰野氏が応じる形で意見交換が交わされた一連のツイートをまとめたサイト。バンド側からの批判に対してライブハウス側から現状の問題点や考えが表明された貴重なまとめサイトであり、多数の意見交換がなされた。
togetter.com/li/232113
JIROKICHI
高円寺JIROKICHI
1974年創業の高円寺の老舗ライブハウス。ブルースセッションを中心にソウルやファンク、フュージョンなど白熱のステージを展開。国内外の実力派ミュージシャンたちがここに出演している。
ニューロティカ
1984年に結成されたイノウエアツシ(Vo)のピエロメイクが特徴のロックバンド。80年代後半キャプテンレコードから作品を発表した頃より注目を集め根強いファンを獲得。親しみやすいパンク・ロックでインディーズシーンを牽引した。現在もメンバーチェンジ・新規加入を繰り返し精力的に活動している。公式サイト→ https://newroteka.com/